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甘香びわ

長崎を代表するフルーツといえば、やっぱり“びわ”でしょう。
初夏の日差しを象徴するようなオレンジ色、コロンとした実の形、そしてなにより、甘くジューシーな美味しさ。
茂木地区を中心に栽培が盛んなのは長崎県民なら誰もがご存知とは思いますが、大村もまたその産地のひとつ。
大村湾を囲む地形は1年を通じて比較的温暖で、太陽の恵みも十分なこの地は、びわの生育にもぴったりなのです。

甘香びわ

古くからのびわ産地だからこそ栽培できる新品種。

私たちになじみの深いびわのなかでも、ここでご紹介する“甘香(あまか)”を口にしたことのある方は、まだまだ多くはないことと思います。

元々は江戸時代に中国からもたらされたびわ。まさに長崎の歴史とともに親しまれてきた果実ですが、この甘香という品種が生まれたのは、およそ25年ほど前。最初は千葉県の農家さんたちによって栽培が試みられましたが、ただでさえ枝や葉の手入れに手間のかかることに加え、新品種ゆえ育成の手法が確立されていないことから、断念されてしまったのだとか。そこで、びわ栽培にかけては技術・知識ともに他県の農家さんに二歩も三歩も秀でた長崎の人々に託されたというわけです。

丸々と大きな実
和田さんのハウス
ハウス内の様子

ここは和田さん所有のビニールハウス。川沿いの土手に面し、春には桜が咲き誇る、そんな素敵な場所で、丸々とした玉子のような甘香を育てています。

花が咲いて受粉し、実が成って育っていくなかで、ハウスのなかの木それぞれに変化が見られるのはもちろん、同じ木のなかでも生育ぶりに違いが出てきます。

一般的な長崎のびわは、ひと枝に多くて3個の実を着けることを計算に入れ、余計な芽や蕾を摘みながら、一つひとつの実を大きく、そして甘くしていきます。それを和田さんは「1本の枝に2個まで」と決めています。これは、より大きくて甘い実を収穫することを追求した結果なのです。

低い幹と横に大きく広がった枝が面白いびわの木ですが、これは人の手がかかっているからこその姿。びわに限ったことではありませんが、ピンと立った枝にいい実が着かないのはは、枝を伸ばすことに栄養を使ってしまっているため。実に栄養が行き渡るように、そしてまんべんなく日光が当たるようにと、高くまっすぐに伸びる木や枝を低く抑えて横に広げていくうち、こうした姿になっていくのです。

1枝2個に絞って、さらに木を低くすると、当然ながら木1本あたりの収穫量は限られます。そのため和田さんは、ハウスを広く使って多くの木を植栽しています。自分たちの作業がしやすいよう手が届く高さに実が成るように、という心がけはたくさんの本数を抱えるがゆえの努力でもあるのです。

低く枝を広げた木

いい実をできるだけ多く。だから、低い木をたくさん。

実を覆う袋
1本の枝に2個の実

お邪魔したこの日は、収穫まであと1週間といったタイミングでしたが、見慣れたびわの実のイメージと違ってより丸みを帯びた、大きめの玉子を思わせる甘香が成っていました。

通常“長崎びわ”と呼ばれているものは、Sサイズ(25~30g)から3L(65g以上)が規格とされていますが、この甘香はもっとも小ぶりなものでも2L(56~65g)、さらには4Lサイズ(80~89g)から上があり、5L(90g以上)、6L(103g以上)とまさに規格外の大きさが揃っています。

もちろん、これほどの実が思い通りに収穫できるわけではなく、今なお栽培方法が確立されていないため、毎年が試行錯誤なのだそうです。

「ハウス栽培は手間がかからない」ということはありません。

「女ん人と同じんごと、シミ、ソバカスに気を付けんと、きれいな実にならんとですよ」と語るのは、植木田さん。同じく大村で、甘香を栽培しています。

葉や実の生育には日照が欠かせないびわですが、あまり強烈な日の光が当たると、人と同じように表皮にダメージを受けてしまうのだとか。美味しさそのものに変化はないそうですが、そうなると商品価値を失ってしまいます。実に袋が被さっているのは、それを防ぐための対策。袋の1枚1枚の内側が黒くなっており、日差しをやわらげてくれるようにできています。これを実の成長具合を見ながら、ひと枝ごとに被せていくのですから、その作業がどれだけ骨が折れるか想像もつきません。

袋を開いて見せる植木田さん
摘果前の実
話を聞かせてくれた植木田さん

「あんまり木の高うなってしもうたら、袋がけはもちろんですけど、収穫ん時もしんどうなるけんですね」とおっしゃる植木田さんに「びわの木って、枝がやわらかいですよね。けっこうしなってくれるから、それを手元に引き寄せれば、作業も楽なんじゃありませんか?」と返したところ、「そがんして片方の手で枝ば持って、もう一方の手でハサミば持ったら、実ば支える手の足りんごとなって落としてしまうじゃなかですか。そいけんキツかとですよ。もう1本、腕の欲しゅうなりますよ」と冗談交じりに、栽培農家さんならではの苦労話を聞かせてくれました。春から出荷のピークを迎えるころは、ハウス内の温度も上がって汗もひっきりなしなのだそうです。

今年は花が一度に咲いたこともあって、受粉に欠かせないミツバチの活動も口火を切ったように盛んになり、ハウス内の木が一斉に実を着けてしまいました。そうなると、例年ならそれぞれの木の成長度合いに合わせながら順を追って袋がけや収穫ができるところが、あの木もこの木も、あの枝もこの枝も、といっぺんに追い込み作業を迫られることになります。それでなくても、4月・5月は休み返上の忙しさ。「今回は特に大変なんでしょうね」と尋ねると「いつもんことですけど、世間でゴールデンウィークっていうても、ろくにゆっくりできたこともなかですけんね」とのこと。そんなことをおっしゃりながらも、その目にはこれからの最盛期を迎える意気込みが感じられました。

上向きに着いた実を保護する袋
ハウスに紛れ込んだ蛙

木や枝の1本1本に向き合って、1個の実が美味しくなる。

甘香専用の箱の大きさ

長崎県央農業協同組合・中部集出荷施設は、大村近郊の組合員さんたちが持ち込んだいろいろな野菜や果物が選別・箱詰めされ、その多くが関東・関西方面に出荷されていきます。デリケートなびわは、ここに持ち込まれる段階で専用のトレーに乗せられてきます。それをあらためて選り分け、サイズごとに箱詰めします。JA営農部販売課の吉田さん曰く「甘香の見た目の特徴といえば、このぷっくりとした丸みと、お尻の尖ったところが無くて開き気味になっているところですね。香りも水分もしっかりたっぷりしてますし、なにより実が大きいですから1、2個で十分に満足できますよ」とのことでした。箱のサイズの違いからも、なかに入る1個の大きさが伺えます。

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​【甘香びわ】
長崎県大村市産

今回、取材にお邪魔させたいただいたのは、ちょうど出荷直前の時期。残念ながら、その味わいを楽しむことはできませんでした。これからお求めいただくみなさんには、ぜひゆっくりと堪能していただきたいところです。これまで食べてきたびわとの違いに、きっと驚くことでしょう。

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